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希少価値は価値ではない

中古マンションを再生して販売する仕事には制約がたくさんあります。
まず、投資し再生する物件の立地を変えることはできません。
それから、共用施設を変えることもできません。

2K3Hについてはすでに書きました。
住宅購入者が重視する5大要素ーーー価格、距離、日当たり、広さ、部屋の数。
このうち、中古マンションをリノベーション再販する事業者にとって可変的なのは価格と部屋数だけです。
駅からの距離も日当たりの良さも部屋の広さもリノベーターは変えることができません。
(もちろん、日照条件を配慮した内装や狭いスペースを有効に利用する策を講じるなどの工夫には常に余地があります)
そして、部屋数という要素についても、実際変更するケースは極めてマイナーなので、事実上、価格だけが事業者にとって可変的だというすごく窮屈な条件で仕事をすることになります。

こうした条件下で生きていく中で、行き当たった一つの解に「『希少価値」に価値はない」というものがあります。
一般的にいえば、希少価値というくらいですから価値はあるわけです。
しかし、ACSが手がけているリノベーションマンション事業では、その価値を一切認めなくなりました。

人材も不動産も同じものが二つ存在しないという点で共通しています。
同じような物件は存在しても、同じ物件はない。
つまり、個体ごとのバラツキがかなり大きいわけです。

当初、まだ多少は「希少価値の価値」を信じていた頃、手がける物件に「誰か一人買ってくれる人が見つかればいいんだから」という励ましをもらったものです。
しかし、その一人がなかなか出てきません。
そこで気づきました。簡単なことです。その物件は希少というよりもニーズがないスペックだっただけなのです。
(価格が安ければいい? これも危険な解だと言わざるを得ません。この考え方でも随分と失敗しました)

物件も希少かもしれませんが、買うお客様も希少だという当たり前の事実。
ところが、その希少な物件にも投資をしていった。
これまた理由はとても簡単で、それらは全て、物件だけ見ればとても良いものばかりだったからです。
しかし、それとて、買い手であるお客様を見ず、物件の良さだけを見てしまっていたから陥った過ちでした。

さて、前回後段に書いた「広い部屋が狭い部屋よりディスカウントされる」というロジックですが、ここには「お客様が買いたい価格」と「住みたい住戸のスペック」の見極めが前提条件として存在します。
「お客様が買いたい価格」と「住みたい住戸のスペック」が見極められていないと、このロジックはしっかりと働きません。
が、おおむね、ある水準以上の広さを持った住戸は大きくディスカウントされてしまうのが、日本の中古流通に共通する傾向だと、私は見ています。
なぜなら、1住戸あたりに住む人数が年々減っているから。住まう人数がどんどん減少していくわけですから、広さはある閾値を超えて以降、無駄でしかなくなるわけです。

話を戻します。
ここでは、広さ70㎡がお客様にとってほしいスペックの理想だとします。
それを3000万円で買いたいとしましょう。
そこに60㎡で3000万円のマンションと90㎡で3000万円のマンションがあるとき、お客様はどちらを選ぶかということです。

普通に考えれば、後者でしょう。
予算範囲で、理想よりも20㎡も広い家が手に入るわけですから。
でも、答えは逆になる確率が高い。

ここで、マンションにおける特殊要因を考慮する必要が出てきます。
それが管理費・修繕積立金です。
一般的にお客様はローンを組んで住宅を購入します。
物件価格3000万円を35ローンで買うと月々の負担は92,000円程度です。
一方、管理費等の負担は60㎡の場合、だいたい20,000円程度ですから、その負担割合からすると家の維持コストの2割程度にも達します。
ここで、90㎡を検討してみます。同じマンションだとした場合、管理費等は専有面積に応じて決定されますから、60㎡の住戸に比較すると単純に1.5倍の30,000円となります。
(お客様の理想とする70㎡の住戸がこのマンションにあった場合には、管理費等は23,300円)

さて、お客様は理想よりも10㎡小さい部屋を想定よりも月間3,300円安いコストで買うか、理想よりも20㎡広い部屋を月間負担を高めてまでも買うか、どちらだろうかという問題です。
多くの場合、答えは広さを犠牲にして負担を減らすほうに向かいます。
それほど、お客様の経済的負担に対する感覚はシビアですし、広さについては理想以上のものをわざわざ負担を高めてまで欲しいとは思わないということなのです。

このケースで90㎡のお部屋を買ってもらうためには、管理費等の負担分だけ物件価格から割り引かなくてはなりません。
ローン負担から逆算すると、それは約300万円。
ロジックを積み上げると、この90㎡の住戸は2700万円なら買ってもらえるということになるのです。

もちろん、これはあくまで仮想の話です。
現実には、ここまで綺麗にディスカウントされることはありません。
しかし、明確なのは、いらない広さにお客様はコストを支払ってはくれないということです。
こうした見方を重ねる中で、ACSでは「不要な広さ」を割り出す作業が始まりました。